相手を『説得』しなくても、気持ちが伝わり前進できた! ~リハビリ場面でのコミュニケーション~
医療、看護、歯科、リハビリみなさんこんにちは、椎木洋子です。私は、大阪市内の病院で作業療法士として働いています。
患者さんとリハビリしている中で、色々な場面で提案や助言する機会があります。
けれど、医療者側からすれば「当然そうしたほうがいい」と思えることも、患者さんにとってはそうではなかったり、患者本人が必要と分かっていることでも、なかなか実行にうつせないことを体験します。
以前担当したAさんのリハビリでも、関わるスタッフみんながAさんのためを思って声をかけていたのにうまく行かず、逆効果…という事がありました。
Aさんは、奥さんと二人暮らしで、ご高齢な二人で支えあいながら暮らしていました。
そんなある時、Aさんは自宅で転んでしまい、脚を骨折!
入院、手術、そしてリハビリを受ける必要がありました。
手術は無事終わり、予定通りリハビリが開始になりました。けれど、先生からは約1ヶ月間は完全免荷の指示があり…。完全免荷というのは、立つ時や歩く時に骨折した脚をついてはいけないということです。骨折した脚をつくことが禁止なので、両足で立ったり歩く練習はできません。まずは自力で寝起きしたり、手すりなどを持ちながら片脚で立ち車いすに乗り移ること、看護師に介助してもらいながらトイレに行くことを目標にリハビリを進めることになりました。
若い方でも、片脚をつかずにもう片方の脚だけで動作するというのはなかなか大変です。80代のAさんにとってはとても大きな負担でした。
Aさんは奥さんとふたり支えあって生活をしていて、介護保険や近所に住む子どもの手助けも受けていましたが、奥さんの方が生活場面で援助が必要で、生活の多くをAさんがサポートしていたのでした。精神的にも身体的にもお互いがなくてはならない存在でした。
Aさんが入院している間、奥さんは介護保険のサービスを増やし、子どもさんからのサポートを受けて元気に過ごせていたのですが、それでも、奥さんのことが気になるAさんは「自分が家に帰らないと、あいつが寝たきりになってしまうから」と毎回のように話しながら、毎日欠かさず、リハビリに取り組んでくれました。
ところが…
順調にリハビリが進んでいたある日、Aさんが「もう帰る!」と言いだし、誰の言うことも聞かなくなってしまったのですw(°o°)w
入院生活が長くなり、Aさんは奥さんのことが心配で心配で、帰りたくてどうしようもなくなってしまったのです。
お医者さんや看護師が説得しても、Aさんの興奮はおさまらず…
看護師「Aさんはまだ歩けないし無理ですよ。今帰っても自分一人じゃ動けないでしょう。もう少しリハビリ頑張って帰りましょう」
Aさん「いいや、慣れた家だから大丈夫。ケンケンしたり、這ってでも動ける。なんとかなる!」
看護師「まだそこまでリハビリ出来てないんだから歩けないですよ。せっかくここまで良くなったのに、転んだらどうするんですか。無理ですよ! 家族さんも困りますよ!!」
Aさん「家族には迷惑かけない。自分で出来るから大丈夫。もう、時間がないんや!」
こんなやり取りで、話し合いは平行線。
ご家族からの声掛けにしぶしぶ、じゃあもう少し頑張るとなったものの、
リハビリの際には
「誰もわかっちゃくれてない。こんなに帰りたいのに」
「ワシがいないと、あいつが寝たきりになってしまう」
「アカン、アカンって、看護師はいっつも怒りよる」
「自分の身体のこと、家のことは、ワシが一番良くわかってるんや」
「ケアマネや家族は、普段を知らんから分からんのや」
と、Aさんを支援している医療スタッフの言葉は届かず、まるで妨害をする人達であるかのような口調で、まだイライラ高ぶる気持ちを持ったままの様子でした。
「みんなAさんのことを思って言ってるんですよ」などなど、どんな風に声をかけてもAさんの発言や様子は変わらず、リハビリ室に来たものの、訴えは止まらずリハビリすらなかなか取り組めません。
おさまるばかりか、声をかけることで、またイライラを再燃させてしまいそうなAさん。
なんて声をかけよう…
Aさんの訴えを聞きながら、かける言葉を探していました。
その時、ふと、先日パラダイムシフトコミュニケーション®を学ぶ療法士仲間と、リハビリの時に「どんな感じで、学んだことをみんなは使ってるの?」とそれぞれがリハビリ現場での体験をもちだし、話した事を思い出しました!
そして、
「Aさん、奥さんの事が心配なんですね。早く元のように生活したいですよね。私も、またお二人がもとのように仲良く生活出来るようになって欲しいし、家族さんにも安心して過ごしてもらいたいです。慌てて帰って、もし転んじゃったりして、また怪我して離れ離れとかなってほしくないです。きっと Aさん、奥さんのために頑張って動いちゃいそうやし、転ばないかと心配です。ここまで良くなってるから、私は、あともう少ししっかり歩けるようになるまで一緒にリハビリ頑張って欲しいんだけどなぁ」こんな風に話かけていました。
Aさんは、「頑張る」とも、「わかった」とも答えませんでした。
けれど、「さあ、練習しましょうか?」というとそのままリハビリに取り組まれました。
その日から、Aさんは「帰る!」と言ってスタッフを困らせることはなくなりました。
その後もしっかりリハビリに取り組まれて、無事に退院することが出来ました。
私達も安心して送り出すことが出来ました!
いつもは、何とか分かってもらおうと、ついついこちらの思いばかり伝えてしまったり、説得しようとしてしまいます。
けれど、説得しなくても、相手の気持ちも伝わるし、私の気持ちも伝わる。
そして、気持ちを伝えると、こんなにも一緒の方向を向いて訓練できる!
そんな瞬間を感じた体験でした。