患者さんの未来に影響を与えるセラピストの視点~未来から観る~
CTNブログ医療、看護、歯科、リハビリ皆さん、はじめまして。渡邉徹といいます。
コミュニケーショントレーニングネットワーク®の講師をしています。
現在、私は、横浜の脳神経外科病院で理学療法士をしていて、約90名のリハビリテーション科の副技師長もしています。
リハビリテーションという仕事は医師の指示に基づいて行うのですが、セラピスト(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等)のあり方次第で患者さんの未来を創ることができるとてもやり甲斐がある仕事だと私は思っています。
しかし、その一方で、例えば「この病気(障がい)だから、この動作ができないのは、仕方ないよね~」という風に、専門家であるがゆえに、患者さんを病気や障がいの面から見てしまう傾向があり、それによって患者さんの可能性が見えなくなってしまうことがあります。
そんな中、部下との会話により、部下がシフトして患者さんの前進につながった話をお伝えします。
ある日、3年目の理学療法士が私に相談に来ました。
『あと3か月で退院する予定の左片麻痺の患者さんのことです。奥さんは「どうしても家に帰したい」と言われていますが、私(理学療法士)が介助しても歩けないくらいの状態なので、将来、奥さんが介助して歩くのは、どんなに回復したとしても難しいと思います。家に帰るのも難しいんじゃないかと、私は思っています。だから歩行練習のための装具を作るかどうか悩んでいます。装具を作ったところで意味があるとは思えません。一方で歩けるようにするとしたら装具を作るしかありません。いろいろ先輩に相談してもどちらがよいかわからないって言われて、どうしたらいいでしょうか・・・』
という内容でした。
私から見ても、その患者さんはまだ意識も朦朧としていて、介助で立ち上がることすら難しい方でした。この状態からすると、確かに彼女がそう言うのも無理はないと思いました。ただ、一方で今の患者さんの状態から未来を限定し過ぎているかもしれないとも思いました。
はじめは、私がいろいろ提案しましたが、彼女は、いろいろ理由をつけて提案を受け入れませんでした。
そこで、視点を変えて患者さんの未来からの会話をしてみました。
私:「患者さんが3か月後に退院するときにどうなってほしい?」
彼女:「退院するときには奥さんと少しでもいいから歩けるようになってほしいと思います。」
私:「では、今から2か月後、つまり退院の1か月前にはどうなっていればいい?」
彼女:「私と装具をつけてどんな介助でもいいから歩行練習ができればよいと思います。」
私:「では、今から1か月後にはどうなっていればいい?」
彼女:「装具を使って立つ訓練ができればよいと思います。」
私:「では、今から2週間後にはどうなっていればよいのかな?」
彼女:「装具が完成していればよいです。」
私:「では、そのために今日は何をすればよい?」
彼女「装具屋さんに装具を作ってもらいます。」
彼女は、ニコニコしながら言いました。
私の提案をことごとく受け入れなかった彼女でしたが、この会話の後、あっさり装具を作ることに決まりました。
結果として、その患者さんは退院時には奥さんと歩くことはできませんでしたが、その後の訪問リハビリによって奥さんと歩けるようになりました。
もしかしたら、この患者さんの障がいの程度であれば、一般的に病院では、装具を作っても無駄と判断し装具を作らない場合が多いかもしれません。たとえ作ったとしても、理学療法士が装具の意味を見出せないままリハビリを行っていたかもしれません。
しかし、この未来からの会話によって、現実にとらわれすぎていた彼女の考えがシフトして、装具を作成し、最終的には奥さんと歩けるようになるという結果につながりました。
今の現実を見ると「難しい」と感じることでも、未来から見て、未来から発想すると、軽やかに結果につながることもあるのかもしれない、と彼女を見ていて思いました。
ちなみに、このように「未来から見る」という視点は、私が、コミュニケーショントレーニングネットワーク®の講座で学んだことです。
セラピストは、患者さんの未来に大きな影響を与える仕事です。だからこそ、このような視点がとても大切だと改めて感じた体験でした。
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