リハビリ開始前なのに、患者さんが自発的に取り組んで、そして結果まで手に入れてしまうコミュニケーション!!
医療、看護、歯科、リハビリ熊本在住の理学療法士の大籠です。
先日、ある理学療法士専門誌の特集で理学療法士を対象にアンケートを実施した結果の記載がありました。「日々の臨床の中で技術・知識レベル以外でどんな問題に直面しますか?」という問いに対し、最も多かった回答が「コミュニケーション」で、続いて「患者」「連携」「人間関係」のワードも大きな割合を占めていた記事でした。
私の周りでも、患者さんとの関係の構築に悩んでいたり、患者さんにリハビリ指導をしても自主的に取り組んでもらえない等、「コミュニケーション」や「患者」「連携」「人間関係に関する療法士の悩みをよく耳にします。私自身、患者さんに自主的にリハビリに取り組んでほしくても、ほとんどの患者さんは口では「やります」というものの、実際の行動は起きないため、いつしか「患者さんは誰しも口では『やります』と言いながらも、実際には自主的にリハビリには取り組めないもの」だと頭のどこかで決めつけていました。
そんなある時、私の一言から、患者さんがリハビリを開始する前にもかかわらず、自発的にリハビリされ、そして麻痺した腕の動きがスムーズになるという前進を創られた体験がありました。
その患者さんは病気により左半身に麻痺が残っており、発症後3か月ほど経過、急性期病院を退院され私のいる病院にリハビリ目的にて通院されることになっていました。
その初回の面談時のことです。
50歳台の男性で、初めてお会いすることも重なり表情も険しく気難しい印象を受けました。
廊下の待合ソファーにて自己紹介をし、いつものように生活上の困りごとやリハビリに対する希望の聞き取りを実施しました。患者さんが真っ先に言われたのが、「左手の麻痺が残っている、早く治して仕事に復帰したい」ということでした。
聞くと仕事は技術者で、両手を使う仕事の為、職場復帰のためには左手が使えないと話にならないこと、医者からは治る可能性は明確に伝えられていないとのことでした。
そして患者さんが話す言葉の随所に、今後の生活や仕事への不安、病気になった自分自身が情けないという気持ち、何で自分がこんな目に合うのかという悲しみと怒り、どうにかしてくれという願いなど、たくさんの気持ちを感じました。
それらの事を全て受け取った後に、左手の状態を把握するために、実際に左手に触れていきました。患者さんの左腕は、やや左腕の筋肉が全体的に過緊張(筋肉が固くなっている状態)になっていることがわかりました。もちろん神経学的にそのような状態は起こりえるのですが、「早く治したい」という気持ちから、左手を力ずくに無理やり動かしている様子を感じ取り、それが筋肉の過緊張を助長しスムーズな動きを妨げているのかもしれないと感じました。
そこで、「もし違っていたら申し訳ありませんが…」と申し添えたうえで、これまでリハビリを頑張ってこられたこと、これからの仕事や生活に不安があることなど、私が感じたことを全てお伝えし、現在の左腕の状態についての私の見立てを説明しました。
すると、これまでしかめていた表情が一瞬で、とてもほっとした表情になったんです。
「自分の気持ちを理解してくれた」と感じていただけたのかもしれません。
そして、続けて私は「〇〇さん、初回から申し訳ありませんが、次回のリハビリまでにやっていただきたいことがあります。」「左手を使うときの、『頑張り度』を観察してきてください。どう動かすかは次回以降のトレーニングでやっていきますから、あくまでも観察でOKです」と宿題を出したんです。「こんな運動をやってみてください」というような宿題ならよくありますが、『ただ観察するだけ』の宿題です。
患者さんは少し面食らった表情でしたが、「わかりました」と言って帰路に就かれました。
私も今までこんな宿題を出したことはなく、事前に考えていたわけでもなく、この時にその場で湧いてきた宿題でした。
そして数日後、患者さんの様子が一変していたんです!
廊下をこちらに向かって足早に歩いて来て、私の前にきたかと思うと満面の笑みで、「いやーわかりました!!」と言いながら左手を動かしてくれました。
明らかに前回よりも動きが良くなってるんです。
余分な力みが減って、前回よりもスムーズに左腕を動かされているんです。
「なに?なに?何があったの?」と聞くと、「大籠さんの言っていることがわかったよ!」「力を入れずに動かすってことがわかった気がする」「庭で草取りもできたんよ!」と。
一瞬びっくりしましたが、患者さんが左手の動かし方を掴まれたんだなと気づき、「それはよかった」「〇〇さんが宿題に真摯に取り組んでいただいた結果ですね」と返しました。
リハビリで療法士とのやり取りの中で患者さんが自発的に取り組むようになって…ではなく、リハビリ開始前なのに、患者さんが自発的に取り組んで、そして結果まで手に入れてしまうコミュニケーションってすごくないですか!
ここにはパラダイムシフトコミュニケーション🄬のたくさんのセンスが詰まってるんです。
ぜひこのセンスに触れていただけると嬉しいです。